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ふれあいコラム

ふれあい便りに掲載のカウンセラー等によるコラムを掲載します。
ふとした気づきやひとつの考え方として参考にしていただければ幸いです。
1年を早く感じる理由

 長かった暑い夏が終わりようやく秋を感じるようになってきました。それでもまだ暑い日も多く夏気分で過ごしていたのですが、テレビからクリスマスのCMが流れてきて年末が近づいてきていることに気付き、1年の速さに驚いてしまいました。子どもの頃の1年はとても長く感じたはずなのに大人になるとあっという間に感じるのはなぜでしょうか。

 フランスの哲学者ジャネーは、「年を重ねるにつれて自分の人生における1年の比率が小さくなるため、体感として1年が短くなり時間が速く過ぎると感じる」ことを説明しています。例えば、50歳の人の10日間は5歳の人の1日に当たるので5歳の子と比べて10倍の速さで月日が過ぎているように感じるのです。子どもの頃は見るもの聞くものが初めてのことばかりで刺激をたくさん受けますが、大人になると日々の生活に新鮮味がなくなるため時間があっという間に過ぎてしまったと感じるようです。

いつもと変わらない日々はゆったりとしていて楽ですが、たまには子どもと一緒に新しいことに挑戦したり普段やらないことを敢えてやってみてはどうでしょうか。経験したことが強く意識に残り、時間が早く過ぎ去るのを食い止められるかもしれません。

2024.10

誰かが気にかけてくれている

 私が勤めている子育て支援の現場で、1歳のAちゃんとBちゃんが遊んでいました。Aちゃんは、Bちゃんが遊んでいたお人形をBちゃんから奪いとってしまいました。周りの大人は「それはBちゃんが今使っていたよ」「Bちゃんにどうぞできるかな」と口々にAちゃんに声をかけました。Aちゃんはずいぶん長いこと葛藤した後、ようやくBちゃんに人形を返すことができました。それを見た大人たちはまた、口々に「Aちゃんえらいねぇ」「どうぞできたねぇ」と声をかけました。

でも私は見ていました。その陰でBちゃんのおかあさんがBちゃんに小さな声でそっと「Bちゃんえらいね、ちゃんと待ってあげられたね」と声をかけていたのを。

皆の注目を浴びていたAちゃんの後ろで、Bちゃんはひっそりと、怒ったり泣いたりせずにじっと待っていた。そのことをBちゃんのおかあさんはちゃんと見ていてちゃんとほめてくれた。

 「誰かが私を見ていてくれている」。この感覚はとても大切なものです。誰かが気にかけてくれている。誰かが自分の気持ちを知ってくれている。誰かが自分を認めてくれている。そのつながりが、時には崩れそうな心を救うことだってあります。

 悩んでいる時、しんどい時、この世界でたった一人なのではないかと思う瞬間があります。でも周りを見回せば、きっと誰かが見ていてくれている。思ってくれている。それは身近な誰かかもしれないし、未来の自分自身かもしれない。子どもたちが、そして大人たちも、その誰かに気付くことができるといいなと思っています。

2024.7

◆人気の絵本『大ピンチずかん』 (鈴木のりたけ著:小学館)

 この絵本は子どもが体験しがちな「大ピンチ」をレベルの大きさやなりやすさ(発生しやすさ)で分類し、似たピンチや対処法なども紹介しています。例えば机に牛乳をこぼすのは「大ピンチレベル4」ですが、もったいないからとすすって飲もうとしたらコップが倒れるというさらなるピンチを迎えることも。「ゲームをしようとしたら充電できていなかった(レベル22)」「お風呂に入ろうとしたらお湯がなかった(レベル50)」「かばんの中から昔のおにぎりが出てきた(レベル52)」など一度はやったことがある失敗がたくさん紹介されています。大人にとってはささいな失敗でも子どもの中では「しまった」「どうしよう」と固まってしまうことはよくあります。そういうときに大人が処理して何もなかったかのようにすることや、そもそも失敗しないように大人が先回りすることは子どもの経験値を奪うことに繋がってしまいます。著者の鈴木さんは「ピンチについてもっと語って慣れてもらい、失敗するのは当たり前だと思ってほしかった」とコメントしておられました。

 「大ピンチずかん2」では、ピンチの原因を「ドキドキ」「つらい」「ふあん」「はずかしい」「気持ち悪い」「イライラ」の6項目に分けてグラフに表しています。「不安だったからこんなにいやだったのか」と自分の気持ちに気づくきっかけにもなるかもしれません。興味があれば絵本のホームページをのぞいてお子様と経験談で盛り上がってみてください。

2024.6

安全な場所

 もうすぐ今年度が終わります。寒かった冬が終わり梅や桜が咲き始めているのを見ると春の訪れを感じます。この時期は進級・進学など嬉しいことがある反面、「次の担任の先生はどんな人かな」「クラス替えが心配」「友達ができなかったらどうしよう」など人間関係の不安や新しい学校・職場・教室など環境への不安がとても大きくなる時期でもあります。今まさに不安でいっぱいの方も多いのではないでしょうか。

 今回は不安なことで頭がいっぱいになったときの対処法の一つとして“安全な場所をイメージする”という方法をお伝えします。実際に行ったことのある場所や想像上の場所でとても落ち着く、安全な場所を考えてみてください(例:青い海と白い砂が見える場所、山に登った時に見えた景色、雨上がりの虹、居心地の良い家のリビングなど)。思い浮かんだらそこに自分がいることを想像してその風景・音・匂いに浸ってみます。その時、目をつぶったり深呼吸したりして自分が心地よいと思う状態をしばらく味わってみましょう。

少し気持ちは落ち着いたでしょうか。忙しい毎日の中で不安・疲れ・イライラといった不快な状態になったときには安全な場所をイメージして少しだけでもほっこり落ち着く時間を持ってみてください。

2024.3

マインドフルネス

マインドフルネスという言葉を知っていますか?マインドフルネスとは、雑念にとらわれることなく、身体の五感に意識を集中させ、今この瞬間の気持ち、今ある身体感覚をあるがままに受け入れている状況を言います。例えば食事をしている時、お風呂に入っている時、どこかに向かう移動時間、頭の中は過去に起きたあれこれを思い出したり、これからの未来の計画をたてたりしていないでしょうか。もちろんそれ自体は悪いことではありませんが、常に心が過去や未来に行ってしまっていると、今していることはただの作業になってしまい、感じる心が閉ざされてしまいます。現代人は大人も子どもも忙しくて、そういう生活になっている方も多いのではないでしょうか。

「忙しい」とは「心を亡くす」と書きますね。忙しくてちょっとうつうつとした気分になりかけたら、少し落ち着いて、意識して自分の感覚を感じてみてください。瞑想をしマインドフルネスの状態を習慣化することで、ストレスや不安の軽減、集中力、感情コントロールの向上など、さまざまな面で効果が得られることが分かっています。瞑想をしなくても、例えば食事を味わいながら食べること、湯船の気持ちよさを感じること、歩いている時に空の青さや道端の花の美しさに目を向けること。そんな、日々のひとつひとつを意識して感じることで、「今ここ」を味わい、ちゃんと自分を取り戻す。自分の心を大事にすることで、日々の生活に対する感じ方もきっと変わってくるはずです。

2024.1

箱庭

 高の原教室の相談室には箱庭が置いてあります。四角い箱の中にさらさらの砂が入っていてそこに人や動物・植物・乗り物などのミニチュアを置き、自由に何かを表現したり物語をつくって遊んだりするものです。相談室に入ると棚いっぱいに置かれたミニチュアが目に入るので興味を持った子には自由に砂を触って自分の世界を作ってもらっています。砂を掘って海や山をつくる子、動物や恐竜の世界をつくる子、家やお店などを並べる子などさまざまです。頭の中で考えて作品をつくるというよりは、ミニチュアの棚を眺めて「これが気になるな」「これをこの場所に置くのがぴったりだな」とそのときの気分で向き合ってもらいます。自分でイメージした世界を楽しそうに説明してくれたり、口には出さなくても色々想像してニヤッと笑っていたりする姿を見ていると、箱庭に刺激されて心が動いているなと感じます。自分の気持ちを言葉として表現するのが苦手だったり何か心の中にもやもやした気持ちがあるけれど言葉にならない、といった方でも取り組みやすいですし、砂に触るだけでも緊張がほぐれリラックスできます。私たちは箱庭の作品に込められたメッセージを丁寧に受け取ってその子の理解につなげたいと思っています。

2023.12


自分に合ったつながりの場を

京都府の不登校支援事業の一環で、この秋に「メタバース不登校学生居場所支援プログラム『ぶいきゃん京都』」が実施されていました。メタバースとは、インターネット上の仮想空間のことで、自分自身の分身であるアバターを介して自由に動き回り、他者と交流し、さまざまな体験ができます。今回の『ぶいきゃん』は、VRchatを用いた交流の中で、新たな知見を学び、人とつながる経験をする場となっていたようです。「自宅にいながら社会参画できる」「顔出しなしでコミュニケーションが図れる」「話すのが苦手な人でもわずかなジェスチャーを表現できる」など、他者とのコミュニケーションが苦手な人でも踏み出しやすいという点で、画期的な取り組みだと思います。

 小中学生の不登校は年々増加傾向にあり、令和4年度の文科省の調査では、全国で29.9万人にのぼっています。文科省でも「誰一人取り残されないまなびの保障」を掲げ、不登校児童生徒のさまざまな学びの場の拡充にも力を入れています。

 ふれあい教室で子どもたちを見ていると、子どもが成長していくために一番大切なのは、人とのつながりだなぁと感じます。人とつながり、相手を知り自分を知ってもらって、その中で認められる経験が、なにより子どもの自信につながり、育っていく力になると感じます。

 いろいろな傷つきがあって、いったん人とつながることをお休みしていた人も、今はいろいろなツールがあり支援者がいます。人とつながりたい気持ちが出てきたら探してみてください。きっとどこかに、今の自分に合ったつながりの場が見つかると思います。

2023.10

否定的な言葉と肯定的な言葉

心理学のシャド・ヘルムステッター博士によると、私たち人間は大人になるまでの間に合計148,000回もの否定的な言葉を聞かされているそうです。1年で7,400回、1日で約20回も、「きっと無理」「どうしてできないの」「この前も言ったのに」などの否定的な言葉が毎日降り注いでいることになります。その一方で肯定的な言葉は5,00015,000回とも言われていて、最少の5,000回だとしたら1日約0.7回しか耳にしていないことになります。毎日のように降り注ぐ否定的な言葉はどうしようもできませんが、「きっと大丈夫」「それいいね」などの肯定的な言葉を聞く回数が増えると気分も軽くなり力が湧いてくる気がしませんか。

 

 同じ出来事に関してもどのような言葉を選ぶかによって捉え方は変わります。例えばコップの水を見て「もう半分しかない」ではなく「まだ半分もある」と捉えるようにすること。起きている事象は変わらないのに捉え方がポジティブになったのがわかると思います。普段の生活でも「今日も疲れた→今日も疲れるぐらい頑張った」「うまくいかなかった→明日はうまくいくかも」など否定的な言葉を肯定的な言葉に置き換えてみてはどうでしょうか。「すみません」を「ありがとう」に変えると印象が変わり笑顔が生まれます。ぜひ毎日自分に、友達に、家族に、肯定的な言葉をかけてあげてください。「すごいね」「よかったよ」「がんばったね」「ありがとう」など嬉しくなるような言葉が連鎖していくといいなと思います。

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                  2023.9

マスク外してますか?

突然ですがみなさん、マスクはつけていますか?外していますか?

 長いコロナ禍を経て、この3月にマスクの着用は個人の判断に任されることとなりました。しかし、街を見回せばまだまだマスクをつけている人がたくさんいます。

 やっと解放された!とマスクを外すことを喜ぶ声の一方で、マスクを外したくない…という声があります。もはや下着を脱ぐのと同じような恥ずかしさを感じるという意味で『顔パンツ』なんていう言葉も出てきています。日本インフォメーション株式会社の調査によると、「『顔パンツ』という言葉に共感するか」という質問に、気持ちが「分かる」「やや分かる」と答えた人は、10代、20代の半数以上だったそうです。マスクをとる心理的な抵抗感には、「素顔を見せてびっくりされたくない」「コンプレックスを隠せなくなる」「マスクをしていると対人不安が軽くなる」など、さまざまな理由があると思われます。

ただ、これから暑い夏がやってきます。マスクの中が蒸れるのは不愉快ですし、熱中症の心配もあります。また長い目で見た時に、コミュニケーション上の諸々の影響もあるでしょう。もしも、できたら外していきたいなと思う気持ちがあるようであれば、まずは知り合いに会わないであろう場所への買い物や散歩などから始めてみてはどうでしょうか。「マスクの自分」を知らない人の中でなら、思ったよりも抵抗なく素顔の自分を出せるかもしれません。

2023.6

心理的安全性・・・

「心理的安全性」という言葉を知っていますか?もともとはビジネスの世界で使われていたそうですが最近は子育ての間でも注目されています。
 「心理的安全性」とは「その場において、自分以外の誰かに、自分の気持ちや考えを安心して話せる状態」のことを言い、自然体の自分を安心してさらけだせる環境であること、とも言いかえることができます。チームで仕事をする上で自分の意見を遠慮なく言える環境の方が新しいアイデアが湧いたりミスが減ったりすることに繋がるそうです。

 

これを学校や家庭に置き換えてみるとどうでしょう。家庭やクラス内で心理的安全性が確保されていると、自分の考えを言ってもいいのだと感じのびのびと過ごすことができます。先生や親の顔色をうかがうことなく挑戦でき、ときには失敗をしながら経験を積み重ねていくことができます。頭ごなしに怒られる心配がなければ嘘をつく必要もなくなり、わからないこともごまかさずに聞くこともできます。そうすると過度にかっこつけて自分を作る必要がなくなりありのままの自分で過ごせそうです。

心理的安全性が高い環境を作るには頭ごなしの否定をせずよく話を聞いて子どもが自分の考えを持てるようにすること、怒鳴ったり大きな音を立てるなどの恐怖感を与えないこと、お説教や親子げんかは長引かせないことなどが考えられます。親も子もお互いにありのままの自分で過ごせる空気感がつくれるといいですね。
                                                  2023.5